真夜中の学校で人知れず戦い続ける「アズ」と「チェス」。
以前「ネタ」で投下した子。
「よくこんなとこ知ってたね、アズ」
「だろ」
「不法侵入じゃないんですかー、ユートーセー」
「確かに俺は優等生だけど、もう一回云ったらここから蹴り落とすよ」
廃ビルの屋上は風化したコンクリートがローファーにざらざらと音を立て、月の表面ってこんなんじゃないかなとチェスは思った。
月面歩行。
見上げても空は曇天、僅かな隙間から見える星は宇宙の裂け目だった。
「天気、悪いな」
「駄目なの?」
「織姫と彦星が会えないだろ」
寂しげな横顔は茶化すような雰囲気でなく、だからもう少しだけ見れないかなと小さく祈った。
「もう少しいれるかな」
「学校に戻らなきゃ平気だろ」
「一年に一回だしね」
「チェス」
「ん?」
「そこ、どうしたんだよ」
「どれ」
「その、手の甲の」
チェスの学ランの袖から覗く甲に、いつのまにやら小さな切り傷が出来ていた。
不安げな顔に思わず笑うと、アズはそれが気に触ったのか唇を尖らせて目を逸らした。
こちらも見ずにぐい、と絆創膏を押し付けてくる。
「ありがと」
「別に。情けは人の為ならず、だよ」
「つまり、僕が怪我するとアズが困るからかー」
「当たり前だろ。死にたくないからな」
「素直じゃない」
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