#クロビ版深夜のお絵描き60分一本勝負
の、07th作品で小説OKなのいいなぁと思ったので勝手にワンドロならぬワンライティング参加です。
安易に風邪ネタでカモカゲ。
の、07th作品で小説OKなのいいなぁと思ったので勝手にワンドロならぬワンライティング参加です。
安易に風邪ネタでカモカゲ。
「カモン、あなたなんだか顔が赤くない?」
アオナの言葉に、カモンは食器を研く手を止めた。
もうまもなくレストランAONAは開店時間になる。店主であり家主である御代姉弟と、その御代家に居候中のカゲロウの三人は開店準備に右往左往しているさなかだった。
「そういえば朝ご飯も進みが遅かったし……。もしかして風邪じゃないでしょうね」
「へ?別にそんなこと……」
心配げなアオナに詰め寄られたカモンが首を傾げる。その拍子に、彼の手から零れたフォークが床を打ちガチャン、と甲高い音が鳴った。
「わ、悪ィ!」
「カモン。手を貸してみろ」
フォークを拾ったカゲロウが、カモンの手を引く。
「ふらついてるんじゃないのか」
「……ちょっと額も熱いわね」
カモンの額に手を当てたアオナも眉をひそめる。
よってたかって囲まれたカモンは、慌てて弁解するように二人の手から逃れた。
「大丈夫だって、こんくらい!ねーちゃんもカゲロウも気にしすぎだぜ!?」
「カゲロウくん。カモンを部屋まで連れてって頂戴」
「わかった」
アオナの言葉にカゲロウは素直に頷く。
「二人とも大袈裟だって……」
「大袈裟なくらいで丁度いいの。風邪は引き始めが肝心なんだから」
「わ、わかったよ……」
アオナの勢いに気圧されながら、カモンはカゲロウの肩を借りて自室に戻った。
カモンがベッドに入ると、毛布を調えたカゲロウは手早く立ち上がった。
「今日はオレが店を手伝う。カモンは休んでいろ」
「カゲロウが気にすることじゃ……」
身体を起こそうとしたカモンを、カゲロウは優しく押し返す。
「はぐれ狼の掟、その11。受けた恩義の借りは必ず返す、だ。二人には、いつも世話になっているからな」
普段は顔見知りの出入りが多いとは言え、昼の食事時にはレストランAONAも混雑する。
慌ただしく行き来をしながら、ふとカゲロウは自室で休むカモンを思った。
そう急変することもないだろうが、悪化などしていないだろうか。
「なんや、今日はカゲロウが手伝っとるんか」
「ユキヒデ」
ドアベルの音と共に入ってきたユキヒデに声を掛けられ、カゲロウは足を止めた。
「カモンが見ぃへんな。配達か?」
「カモンは風邪だ。部屋で寝ている」
「ホンマかい。アオナはんもそこにおるっちゅうことは……一人で休んでんのか」
「ああ」
カゲロウが頷くと、ユキヒデは大仰に頭を抱えた。
「あかんあかん。カゲロウ、様子見てきぃ」
「しかし……」
大分客が引いてきたとは言え、まだアオナは調理に掛かりっきりだ。給仕まで手が回るとは思えない。
言い淀むカゲロウの背中をユキヒデの手が威勢良く叩き、歯切れの良い笑顔が返った。
「ここは俺が見といたる。病人一人にしたら、余計に気ぃ滅入るやろ」
「……ありがとう」
ふ、と意識が浮上した。うっすらの開けた瞼の隙間から、仄明るい天井が見える。
(昼間から寝てるのって変な感じだな……)
時間の感覚が酷く曖昧なのは、熱のせいだろうか。
何日も経ったようにもほんの一瞬にも思える。ゆっくりと緩慢な動作で首を動かし時計を見れば、時間はまだ昼を過ぎたところだ。
ガルバーンはカモンが起きたことに気付いていないのか、それとも近くにいないのだろうか。ベッドからではよくわからなかった。
(今頃ねーちゃん達、忙しいんだろうな……)
申し訳なさと寂しさがない交ぜになったような思いに鼻の奧がツンとする。
その時不意に、微かなノックの音が聞こえた。
気のせいかとも思ったそれは、遠慮がちにドアを開く。
「カモン、起きてるか?」
「……カゲロウ……?」
「悪い。起こしたか」
いいや、と首を振ったが、通じたかはよくわからなかった。
「水と、薬と……食べれそうならと、お粥を預かってきた」
「悪ィな……」
「構わない」
カモンが上体を起こすのに手を貸しながら、カゲロウは首を振る。
「店はユキヒデが手伝ってくれている。だから、カモンの様子を見てこいと」
「そっか……」
今日は一度も顔を合わせていないはずのユキヒデに心細さを見抜かれたような気がして、カモンは気恥ずかしさに苦笑した。
「カモン。他に何かして欲しいことはあるか」
病人の看病などそうそうしたことがないであろうカゲロウの顔は真剣そのものだ。
その眼差しに吸い寄せられるように、カモンは口を開く。
「──────」
軽く口を付けた食器と水の入ったコップを片付けたカゲロウがカモンの部屋に戻ると、カモンは再び横になっていた。
微かな寝息は落ち着いている。その枕元で、カゲロウはベッドに背を預けて座り込んだ。
『そこにいてくれ』
「……カモンは、もっと甘えていい」
そんなことでは返せないほどのものを、カゲロウは貰っている。
受けた恩にはあまりにもささやかな彼の願いを叶えるために、カゲロウはカモンの手をそっと握った。
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