「イシ、弁当忘れてる」
「っと！悪い悪い」
「折角作ったんだからちゃんと持ってってよね」
「ハイハイ。マキさまが作ってくれた弁当ですからねー」
「わかってればよーし」
「うわムカつく」
なんて会話をするのがごくごく当たり前になったのは、いつだっただろう。
高校の頃からの腐れ縁で、大学まで一緒になって。
大学入ったら一人暮らししたいとか、どうせだったらシェアすりゃ安くなるとか。
そんな、今思えば背伸びしまくった酒の席が、その場のノリとかなんとかで実現していた。
学生にはちょっと豪華に1LDK、ユニットバス付きのアパートを借りて。
「んじゃ、いってらっせー、イシ」
「おう。夕飯もヨロシク」
「買い出しはイシだろが」
「後でメールくれよ。買ってくるもの」
「たまにはイシが考えたら？」
「で、買ってきた材料でマキが何作れるか考えるの？」
「なんだその料理王みたいなの」
「いーじゃん面白そう」
「後でメールする」
「ちっ。チャレンジ精神くらい持てよー！」
「ほらほら遅刻するぞ！」
イシは文学部で僕は経済学部。
当然履修科目も被ったり被らなかったりで、今日はイシだけが学校に行くことになっていた。
僕もあるにはあるはずだったんだけど、まさかの休講。
降って湧いた休みを有り難く頂戴している。
僕らのルームシェアは、僕が料理を、掃除洗濯をイシがすることで成り立っていた。
イシは外見だけは有能そうなのに、料理に関しては殆ど経験がないとか。
僕は……よく母さんを手伝ってたお陰なのかな。
マキの料理は好きだ、って、イシも喜んでくれるし。
……ただ、代わりに洗濯とか他の事を買って出てくれるのは嬉しいんだけど。
……朝、汚れてる下着を問答無用で洗うのは勘弁して欲しいなぁ……。
だってだって、イシが隣で寝てるんだよ！？
時々寝言っぽいのを呟いたりとか、寝返り打ったりとか、してるんだよ！？
こっち側に転がって来たりする日には、どんだけ近いとか、匂いもわかっちゃうとか、ああでも僕元々イシが使ってるシャンプー知ってるし、とにかくわかりますか！？
毎晩毎晩のことだけど、これだけは慣れない。
……なんてことを考えてたら、不意に机がびりびりと振動した。
我に返ると、机の上の携帯がバイブレーションで鳴っている。
「メールだ」
『社会学特論 休講になりやがった』
たったそれだけ。
それだけで、休講の貼り紙の前で固まっているイシの姿が容易に想像出来る。
らしくないような、すごく似合うような、そんな姿を想像するとちょっと笑えた。
普段なら「にやけるな」って云われるとこだけど、今は見えてない。
僕は出来るだけ『文章は』冷静に返信ボタンを押した。
『じゃあ、どっか出掛ける？』
すぐに返事が返ってくる。
多分、携帯を握りしめて待っててくれてるんだろう。
『何処に？』
『ディ●ニーランドとか？』
『わざわざ混んでるとこに行くのかよ』
『じゃあ●楽園』
『そこを伏せるな！』
『映画でも行く？』
『了解。マキが観たいっつってた奴チケットとっとく』
『よろしくー』
『とりあえずそのにやけ顔仕舞ったら出で来い』
バレてた。
やっぱイシに隠し事は出来ない。
僕は一言了解の返事を返すと、携帯を置いて支度を始める。
携帯はそれっきり鳴らなかった。
この後映画行ったりスーパーで買い物して帰ったりたまにはってんで一緒にご飯作ったりするんですが飽きたんで割愛！
マキとイシはキホン的に似た者同士です。
でもちょいちょい差異があったり。
マキは結構理数系もそれなりに強いですがイシは根っからの文系オンリー。
二人とも面白い事好きですが、マキがお祭り人混み大好きなのに対しイシは軽くインドア気味。
マキは料理上手の主夫タイプ、イシはレシピがあればそれなりには出来るけど家庭向きじゃない。
そんな感じ。
ちなみに本名は
総和 麻貴（そうわ・あさたか）⇒マキ
石野 由鶴（せきや・ゆつる）⇒イシ
高校時代、マキはイシの出席番号一つ前。
始業式では
「名前なんて読むの？いしの？」
「…なんで『いしの』がお前の前にいるのかな」
「あ、そか。てことはセキノ？」
「正解」
「わかりにくっ！イシでいいよイシで」
「いきなり勝手に名付けるな。何お前、マキちゃん？」
「あさたか！あさたかって読むんだよ！」
「そーわあさたか？うわ、云い難。「総」以外全部母音がアじゃん。絶対マキの方が云い易い」
「マキって云うなー！」
「さてはその反応、……昔っから云われてただろ」
「黙れ黙れイシのイシアタマ！」
……なんて会話が繰り広げられていたのかもしれません。
あと自分自身が一般大じゃないんで一般大のシステムが実はよくわかってません。
うちは単一学部大学だけど、それ以外は大差ないのかな？
